大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)126号 決定 1967年9月07日
抗告人 鶴崎パルプ株式会社
右代表者代表取締役 志田二四男
右代理人弁護士 田村徳夫
同 松田安正
同 阿部幸孝
相手方 薬師神利明
第三債務者 大一産業有限会社
右代表者代表取締役 鹿島進
主文
原決定を取り消す。
抗告人の相手方に対する別紙記載の債権の弁済にあてるため、相手方の第三債務者に対する別紙記載の債権はこれを差し押える。
右差し押えた債権について、第三債務者は相手方に対し支払いをしてはならない。また相手方は取立てその他一切の処分をしてはならない。
右差押えにかかる債権は抗告人においてこれを取り立てることを許可する。
申請費用および抗告費用は相手方の負担とする。
理由
本件記録によれば、抗告人は薬師神チップ工業株式会社に対し、前渡金を支給して同会社からチップ材を購入していたこと、右会社が抗告人との商取引によって負担する一切の債務を担保するため、相手方は抗告人に対しその所有する別紙物件目録記載(一)の物件について昭和三七年二月一五日元金極度額一〇〇万円の根抵当権を設定した外、同(二)の物件について同年三月八日元金極度額六五〇万円の根抵当権を設定し、同年六月一日同(三)の物件をもその追加担保としていたこと、前記会社が抗告人に対して負担する右前受金等債務は、昭和三九年一一月三〇日現在で金一、二六六万八〇円に達したので、抗告人は内金七五〇万円について前記各物件の競売を申し立てたこと、以上のとおり認めることができる。
ところで抗告人は、相手方が右物件を一括して同四〇年一〇月一日第三債務者に賃貸したとして、右根抵当権の物上代位により、昭和四一年六月分以降の右賃料債権につき、差押えならびに取立命令を申し立てている。そこで考察するに、民法三〇四条、三七二条によると、抵当権によるいわゆる物上代位権は、目的物が賃貸された場合の賃料請求権にも及ぶものと解すべきである。もっともこの点については、抵当権が交換価値を把握するものであることを理由として、目的物の滅失毀損等、その全部又は一部について抵当権を行使することができなくなった場合に限り、物上代位を認めるべきであるとする見解がないわけではない。しかし抵当不動産を賃貸してその対価を収受することは、抵当権の目的物の交換価値の一部実現に外ならないから、これについて物上代位を否定すべき理由は存在しない。事を実質的に考えても、債務者は競売物件を賃貸して収益を挙げているのに、債権者が抵当権に基づいてこれから債権の満足をはかることができないと解することは、抵当権の実効を著しく弱めるものであり、両者の公平を欠くものといわなければならない。
そうすると抗告人の本件申立ては正当であるから、右申立てを却下した原決定を取り消して抗告人の本件申立てを認容し、費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判長判事 平峯隆 判事 中島一郎 阪井昱朗)
<以下省略>